台中市は台湾中西部に広がる台中盆地に位置し、周囲が山地に囲まれている。1705年、嘉義に駐留していた台湾北路営参将張国は 南屯一帯が水資源に恵まれた肥沃な土地であることを知って 開墾を始めた。南屯、西屯、北屯一帯が 当時軍隊が屯田していたことを示す地名は 現在にも使われている。1887年、台中市は鹿港を凌いで台湾の行政中心地となり、劉銘伝により官公庁を当時の東大墩街に位置する都市計画が立案され、近代都市としての発展のスタートとなった。
その後、台中は日本統治時代、1900年に発布された「台中市区改正計画」に沿って 鉄道や海運が整備された。また、周辺地域との交流を発展させると共に、市内でも碁盤の目状の道路整備を推進し、京都に似せたところから「小京都」とよばれていた。
2010年12月25日、台中県が台中市に合併され 直轄市に昇格した。台北市や高雄市に比べ、開発が遅れたと言われたが、それこそ、大部分の遺跡や建物がそのまま保存された。また、県と市の合併のおかげで、魅力がある場所の数がだいぶ増えた。市役所の統計情報によると、台中市には 文化財、遺跡、そして歴史的な建物が100ヶ所以上残っている。こうした文化財は、台中の街や文化にしっかり溶け込み、台中が辿ってきた百年の歴史を感じることができる。地図に示すように 台中市の発展は 旧台中市区を中心として 放射状に 広がってゆく。それ故 、台中市を理解するため、先に旧台中市区を廻る事がおすすめだと言われている。
これからは 台鉄台中駅からあまり遠くなく、気軽に行ける場所をいくつかピックアップして紹介する。
台鉄台中駅の大変身
台中観光の玄関口である台湾鉄道台中駅には 高架化に伴って大きく立派な鋼構の近代的な新駅舎が登場し、2016年10月16日から正式に運用が始まった。イギリス風の赤レンガで造られた旧台鉄台中駅舎は、日本統治時代の1917年に建設されたもので、100年近い年月を経てきた台中市の代表的な歴史建築の一つである。旧駅舎はそのまま残っており、今は「鉄道文化博物館」として整備されている。旧台中駅舎は 東京駅の設計者である辰野金吾様が設計したので、両方が似ていると言われる。駅としての機能がなくなっても、
その建築的価値や歴史的評価により、人気観光スポットとして保存されている。
台中公園
広くて美しい台中公園は、台鉄台中駅のほぼ真北にあって、徒歩約10分で行ける。地元の人たちの憩いの場所で、台中を代表する癒しスポットで、また台中近代史をそのまま形に残している場所でもある。
公園内に入るとすぐ目の前には、人工で作られた日月湖がある。その周りに緑がいっぱいで、野鳥やリス達も姿を現し 非常に自然豊かである。本来は湿地帯だったからと考えられる。
日月湖の浮島には30坪ほどの茶色の建物が見える。これは1908年に、台鉄縦貫線全線開通の祝賀会場となった際に、現地を訪れた閑院宮載仁親王の休憩する場所として造られ、「湖心亭」と命名された。湖心亭の外形は 今や台中市のシンボルとして 使われている。
台中神社
日月湖の右側に かつてあった台中神社の遺跡が見られ、まっすぐな石畳の両側にたくさん並んでいる四角柱状の石は 台中神社参道の跡で、四角柱の石は奉納された灯篭の台だったのである。台中神社の遺構も残っている。本殿跡に孔子像がたっていたり、倒壊した鳥居がそのまま保存されていたりという状態である。皮肉なのは google mapに見られる唯一の鳥居だと言われていることだ。
更樓
台中神社の遺跡のそばには「更樓」というすこし変わった建物がある。
この「更樓」は 台中公園に土地を寄付した呉鸞旂氏の邸宅に造られた見張り塔で、1983年に公園内に移設し、台湾にたった一つ残っているものである。望月亭
更樓の西側には「望月亭」という建物があり、もとの台中城にあった八つの城門の一つである北門だった。現存する台中城の城門はこの「望月亭」だけである。また「望月亭」には 清代の臺灣知縣だった黃承乙が書いた「曲奏迎神」額は 歴史的価値があるため、かなり有名になってきた。
「台中市役所」と「台中州庁」
台中駅からは、徒歩15分ほどで到着する「台中市役所」と「台中州庁」とは かつて日本統治時代に官公庁として使われた建築物である。「台中市役所」は 日本の統治時代に建てらた建物で、代々日本人が市長を務め ここで職務を行っていた。「台中州庁」は 昔の台中州の庁舎で、戦後は 一度「台中市政府」として使われていた。両方は、 市の市定古蹟に登録されているが、日本統治時代に由来するため文化資産上の名義も「市役所」と「州庁」のままである。
「台中市役所」は 辰野式のバロック建築様式の建築物で、1911年に台中地区で最初の鉄筋コンクリート建築である。現在は「台中市役所文創園区」として、アートと飲食が楽しめるスポットになった。建物外観の美しさはもちろんのこと、館内にはカフェやレストランが入っているため、小休憩にも利用できる。
「台中州庁」は 白亜の外壁が眩しい、ところどころに朱色が彩られたバロック風の建物である。堂々とした姿はお城のような雰囲気も感じさせる。建物前には噴水があり、記念撮影にはもってこいの美しい建築物である。
台中市政府は「台中市役所」、「台中州庁」、「大屯郡役所」、と「旧市議会」の修復、周辺空間と一体となった開発、景観改造とする再開発計画を始動し、2020年完工後に 現代美術館として生まれ変わる予定だ。
「宮原眼科」
台鉄台中駅から徒歩3分の好立地に立つ「宮原眼科」は、鹿児島県南九州市出身の宮原武熊医師が1927年に開業した、当時台中で最大規模の眼科だった。戦後に 建物は政府資産となり 「台中市衛生院」としてしばらく利用されたが、その後 40年間放置され、やがて台中を襲った地震や台風によって建物は大きく損壊した。その時 手を差し伸べたのが、元祖「土鳳梨酥」のパイナップルケーキで有名な台中の日出グループだった。残留している部分を生かしてリフォームし、新旧を融合させたハイカラなデザインで 「宮原眼科」を新しく生まれ変わらせて 台中で最も有名な観光スポットの一つになった。スイーツショップに変身したが、 名前も『宮原眼科』のまま使われ、ユニークだと思われる。
お店に一歩足を踏み入れればそこにはお洒落でレトロな空間が広がり、たとえ何も買わずとも、一見の価値があるので、ぜひ足を運んでみてください。ここを訪れるならアイスが欠かせない。入り口左側回廊の「宮原眼科冰淇淋」はテイクアウト専門店で アイスクリームを求める人がたくさんいて、大きなお店の中でもここのエリアが一番混雑している。
「台中市長公館」
先ほどご紹介したスイーツショップの「宮原眼科」の建物は 宮原武熊という眼科医が開業していた場所だが、宮原医師の居宅が現在「台中市長公館」と呼ばれている建物である。歴代の台中市長の公邸を改造して作られた総合スペースで、アート作品の展示など、ギャラリースペースとして使用されている。また館内では台湾デザイングッズを販売していたり、カフェがあったりと、ゆっくりと時間を過ごすのにはもってこいの場所である。
文化クリエティブの台中
「台中市役所」、「宮原眼科」及び「台中市長の公館」などのように 古蹟を変わらせて再利用する例も沢山挙げられる。 特に 台中市は 古蹟を文化クリエイティブ産業と観光に改築する事に 積極的な支援を行っている。「台中放送局」、「台中酒廠」、「20号倉庫」、「光復新村」、「審計新村」、「彩虹眷村(レインボー・ビレッジ)」 そして「摘星山莊」などは 若者の起業スペースに改築され、独自の特色製品を生産し、台中の新たな魅力になる。
「臺中放送局」と「台中酒廠」は 名前通り廃棄された施設で、「20号倉庫」は、昔の臺鉄台中駅倉庫で アートスペースとして 再利用するために 作られた場所である。「光復新村」と「審計新村」は昔の台湾省政府の職員の宿舎 だった。「彩虹眷村(レインボー・ビレッジ)」は再開発のため取り壊される予定だった眷村が、居住していた退役軍人黄永阜による壁画アートが注目を集めたため保存が決まった。
「摘星山莊」は 台湾スタイル住宅建物である私人の居宅だったが 台中文化資産として指定された。
台中国家歌劇院
台中国家歌劇院は 約30年ぶりに新設された国家級ホールで、日本の建築家伊東豊雄様が設計し、総面積は57,685平方メートルに及び、約11年もの歳月をかけて完成した。
あまりにも大胆なデザインと過去に例のない施工法のため 「世界で最も難しい建物」といわれる。なぜなら、どこもかしこも曲線ばかり、天井も壁もすべてカーブを描いていて、しかもそのどれもが不規則につくられた。よく見ると、梁や柱といった建築にあるべきものがまったく見えないのだ。
伊東氏は、仏教の考え方から影響を受け、それをベースに、光や空気、水が部屋から部屋へと流れていく自然をイメージして設計した。
院内は大劇場、中劇場、小劇場以外に、飲食店と空中花園を備える屋外小劇場で構成されている。お芝居を観なくても自由に建物内に入ることができ、最上階の6階は「スカイガーデン」と名づけられた屋上庭園になっており、自撮りスポットとしても人気のようだ。夜、ライトアップされると花瓶型のガラス部分がくっきりと浮かび上がり、より幻想的だろうと思われる。
高美湿地
「高美湿地」は 台中市清水区に位置する大甲溪の河口南側の汽水域にある湿地帯で、多様な壌土、砂質が相まっているため、天然資源に富み、台湾でも珍しいカリやカモなどの繁殖地としても知られ、魚類、甲殻類をはじめ、絶滅危惧種の植物「雲林莞草」と「大安水蓑衣」も群生し、野生生物保護区として注目される。
多くの種類の渡り鳥の飛来地となったことから、バードウォッチングの名所として知られる他に、湿地に流れ込む海水が空を反射する鏡となって神秘的な光景を呈する様が話題になり、湖面に周囲の景色が映り込む様は、第二のボリビアのウユニ塩湖と称されるのも納得できる。
台中の未来
台中は 陸、海、空のハブ交通の要所として 地理的に重要な位置にありながら 台湾鉄道山線と海線を結ぶ台中山手線計画を進める事により、 海側と山側、そして屯区の3エリアを結び スムーズに行き来できるようにと 一連の交通ネットワークを整備し 交通網の大動脈を構築して 地域全体を平均的に発展させようと考えている。
様々な交通網を整備することで 環境にやさしく、楽しく遊べる街づくりを目指している。